郷愁。
生まれも育ちも三陸洋上に浮かぶ島で、いまもその島に棲んでいるのだが、
高校を卒業し、すぐに上京してから二十数年は都会暮らしだった。
最初は横須賀の佐島。 森繁久弥さんがオーナーである、ヨットハーバーに勤めていた。
あ、違うな。まだその前がある。三浦三崎に棲む叔父のところでペンキ屋のバイトをしながら、四谷にある劇団に通っていた。半年ぐらいだったろうか。三崎の東岡というところに下宿していた。
オヤジが鮪船の機関長で、久里浜が本拠地の某会社の船に乗っていて、そこの部長さんの紹介で、森繁のオヤジのハーバーに勤め、オーナー所有の「ふじやま丸」という、100トンもあるクルーザーヨットで寝泊まりしながらの勤務だった。
ま、こんなことはどうでもいい。タイトルの郷愁だが、普通、田舎から都会に行き、数年経つと、郷愁というものに駆られるらしい。だが、私には帰郷したい、という思いは微塵もなかった。
生涯都会暮らしするものと信じて疑わなかった。けれど、現実はそれを赦さない。
諸々の事情があり、仕方なく三陸の家に戻ったのだが、どうも私の性格とはテンポが合わず、いまだに日々を過ごすのが難しい。
とくに物を書くようになってからは、田舎というのは不便この上ない環境下。そんなとき、私に湧くのは、長年心地よく棲み慣れた都会への「郷愁」だった。
とはいえ、もう若くはない。再び都会の雑踏のまっただ中に悦びを感じて暮らすことはないだろう。
ひとは「いまはネットやテレビなどから情報がとれるから、田舎も都会もない」と言う。
それは違う。媒体を通じてのものと、実際に体感して得るものはあきらかに違う。
そんなことを思い、懇々と湧く都会への郷愁にたじたじとなりながら、この夜中、せっせとエロ小説の原稿を書いている。
ふぅ、今夜は熱帯夜に近い温度のようだ。